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SS
(無題) 朗読茶之助氏
始まりは唐突だった・・・・。
ほんの気まぐれだった・・・。
ただ・・・ノドが乾いただけだったのに・・・・。
夏の炎天下の中、俺を呼ぶ声がした。
とても可愛い声だ。
夏の熱風は容赦なくノドに乾きをもたらし、照りつける日差しは身を焼き尽くす様な熱さ・・・・。
俺は歩みを速めボロアパートを目指した。
家に帰ると誰もいない・・・・一人暮しは淋しいものだ。
俺は即座に冷蔵庫に歩み寄った。
扉を開き暫しの硬直。
まるで時が止まったかのように思えた・・・しかし電気代の節約のため飛翔した意識を無理やり引き戻す。
冷蔵庫の中にはジュースはおろか麦茶すら入っていない・・・・。
扉のノブに掛けていた手には汗が滲み出す・・・。
神とは残酷なものだ・・・・。
こんなバイトの給料と親の仕送りで生きている極貧学生に天罰をくれるとは・・・。
もう駄目だ・・・。
意識が薄れて行く・・・・。
(ピーンポーン)
玄関のチャイムで再び意識を取り戻す。
冷蔵庫のノブから手を引き離し、薄れる
意識の中フラフラと玄関に近づく。
・・・・そして意識はとぎれた。
気がつくとそこには、青髪をショートボブにまとめた頭と年相応の顔立ちの少女が裸でペタンと座っていた。
右手には白い何かがこびり付いたコップとカルピスのお中元セットが置いてあった。
ここまでは理解できる。
カルピスがお中元で届く、無意識のうちに原液で飲む、ぶっ倒れる。
こんなとこか・・・・?
しかし待てよ?
ここまでは理解できる、が理解できないのはそう、この少女。
誰だ?
近所にこんな子供住んでたっけか?
頭の中で考えを巡らせているうちに少女が話しかけてきた。
「あの・・・パパ?どうしたの?」
その言葉は耳には入ってなかった。
ぶつぶつと呪文のように考えを呟く。
(ぎゅっ)
誰かにシャツの裾を掴まれる感覚でハッと振り向く。
「パパ?如何したんだよぅ」
少女が心配そうに見てくる。
いや・・・パパって何だ?
あーそういえば俺は結婚してて子供が一人―――・・・・・・ってちゃうちゃう。
俺は結婚もしてない・・・・よな?いやしてないしてない。
一寸まて、何で裸なんだよ!?
誘拐!?とうとう俺は誘拐しちまったのか!?
た・・・確かに俺にはぺドの傾向があったような気もするし、いやでもそんなはずは・・・・・。
恐る恐る後ろを振り返ると無邪気にカルピスの原液・・・・だよな?を指ですくって弄くってるし。
「君は・・・・誰?」
聞いてみた。
帰ってきた答えは想像していた以外性を遥かにこえていた。
「パパがカルピス飲んだからカルタンが出来たんだよ」
こっちを振り向いて満面の笑みで答えた。
「どう言う事だよ?」
真顔で聞き返すと少し困った顔をして答える。
「ごめんね・・・カルタンわかんないよぅ・・・・」
今にも泣き出しそうだった。
さっきの言葉に少し苛立ちのニュアンスが混じってたのをこの子は見逃さなかったみたいだ。
「ごめん、わからないよね」
俺は内心焦っていたが表には出さず、極力笑顔で話しかけた。
「お母さんやお父さんはどうしたんだい?」
涙目でカルピスのピンを指差して一言。
「お母さん・・・・」
そして俺に抱きつき。
「パパ―!」
俺は無理やりその子を引き剥がし、座らせる。
スピード重視で洋服箪笥にかけよる。
適当な服は・・・・あった!
白地に水玉模様のワンピース。
なぜこんなものがあるかと言うと、今ではもう昔となってしまったが俺の母は俺に女の子の格好をさせていたらしい。
それ以上は思い出したくない。
・・・というわけでそれを持ってその少女のところに近づく。
ぶっきらぼうにその少女に服をわたす。
少女はキョトンとした顔で服をうけとる。
「なぁにこれ?」
と一言。
「服を知らないのか?」
俺はなるべく少女を見ないようにして聞く。
「ふ・・・く・・・・?」
少女は何もかもがはじめてと言う顔で聞いてくる。
俺は度胸を据えて少女に服をかぶせる。
「きゃはは、くすぐったいよぅパパぁ」
可愛い声で理性を吹き飛ばされそうになるが服を懸命に着せる。
心のかっとうとジタバタする少女に疲れ果てぐったりと横になる。
後ろには少女がぎゅーっと抱き着いて離れない。
結局はワンピースを着せたし万事オッケーと言う事になってはいるが何にしても疲れた。
「ねぇねぇパパぁ」
少女が身体を揺すってくるがしっかりカットした。
「ねぇってばー」
無視無視
「パパぁ!」
ぶつっ!!
と何かが切れた音がしたような気がした。
「っるせぇーーんだよ少しは黙ってろ!!!」
吐いた瞬間少女が「ひっ」っと息を呑んだ。
そして少し泣き顔で、
「パパ・・・・・カルタンのこと嫌いなの・・・?」
今にも涙が溢れそうなくらい涙を溜めて聞いてくる。
「あっ・・・いや・・・その・・・なんだ・・・」
言葉に詰まり、何も言えなくなる。
「パパはカルタンの事が要らないの・・・?カルタンは要らなかったの・・・・?」
少女は一生懸命に涙を堪えて聞いてきた。
「カルタン・・・・出てくね・・・パパ・・・カルタンはパパの事好きだよ・・・・!」
涙を溜めた目で無理やり笑顔をつくりゆっくりとこの部屋を出ていった。
それからどのくらい経っただろうか・・・シンと静まり返った部屋で、
後悔、罪悪感、焦り、悲しみ、鬱、すべてが俺の心の中で巡った。
しかしすぐに立ち上がり体を弾いて猛スピードで部屋をでる。
外は雨が降り注いでいた、雷鳴が轟き風も強い。
「あいつっ!こんな雨の中・・・・!」
俺は未だそんなに遠くに行っていないのを願い、はしった。
雨の雫が体にまとわり付き体を重くする。
だが走った、肺が破れそうなほど苦しかった。
近所の公園を通り越し、モール街で足を止める。
そしてすぐさま近所の公園にもどる。
はぁはぁと荒い息遣いと雨の音・・・・。
そして目の前にはあの子の姿があった。
公園の小さな滑り台のしたに彼女は最初の時のように座っていた。
しかし最初に見た時と同じ元気はなかった。
「あっ・・・・パパ・・・・」
少女は辛そうに声を絞り出す。
体を抱き起こそうと手を体にまわす。
しかし・・・・少女の体はグニャグニャと柔らかくなっていて抱き着いてきた時の感触とは全然違った。
「あ・・・これね・・・溶けちゃったの・・・・」
俺は優しく少女を抱きしめ持ち上げる。
「・・・パパ・・?」
苦しそうに搾り出した声が痛々しい・・・
俺は少女を抱きかかえ走る。
少女になるべく振動がいかないように注意して走った。
アパートの階段を掛けあがり、自分の部屋に入る。
布団を敷き濡れた体をバスタオルで優しく拭いてやる。
「くすぐったよぅ・・・・パパ・・・・」
蚊の鳴くような声で呟くそして笑顔を見せる。
涙を堪えバスタオルで拭いてやる・・・
「何か・・・・飲みたい物は無いか?」
声が震えた・・・。
しかし少女は小さな声で、
「カ・・ル・・・ピス」
わかったわかったよ、心で呟きながら台所に向かいコップに水とカルピスを注ぎ、少女に持って行く。
「ほら・・・カルピスだぞ・・・・飲みなよ・・・」
涙が頬を伝わって行くのがわかったそして一言
「ありがとう・・・パパ・・」
コップを受け取り一口、一口啜ってゆく。
こくこくと飲み、飲み干す。
「パパ・・・おやすみなさい・・・・」
笑顔を見せそして安らかな寝息をたて眠りについた・・・・・。
気がつくと布団の中にいた。
あれから何時の間にか寝てしまったらしい。
しかし隣にあの少女の姿はなかった・・・・。
俺は呟いた。
「カル・・・・タン・・・・」
呟いたとたんに涙がぶわっと溢れ出した。
「なぁにパパ?」
あの子が台所からひょっこり顔を覗かせる。
弾けんばかりの笑顔で俺に歩み寄ってくる。
「パパ昨日はかってに外に出てごめんなさい・・カルタンね、パパが・・・」
言葉をすべて聞く前に強く、強く抱きしめる。
「パパ・・いたいよぅ・・・」
雨が降り止み日差しが窓から差し込む中、
カルタンは嬉しそうに小さく囁いた。
あの日以来すっかりカルタンとは仲良くなっていた。
丁度夏も終わり、秋を通り越して冬が来た感じに肌寒い季節になり布団から出るのも億劫になる。
「ううー寒い」
俺は布団を何時の間にか体から剥いでいた、寒さに目を覚ますとすぐ近くに安らかな寝息を立てているカルタンの姿があった。
重い頭を擡げ時計を探すと早朝6時、もう少し寝ていたいきもするが学校に行く時間を考えるとそうもしていられない。
「さて・・・と」
俺はノロノロと布団からはい出しコタツのスイッチを入れる。
6畳一間でテレビと箪笥、コタツ以外何も無い簡素な部屋に特別に目立つものを見る。
夏の名残、海水浴に行った時に買った浮き輪とコタツの上の記念写真。
幸せな毎日だったと思い出し、ついつい笑みがこぼれてしまう。
そんな事を考えているうちに刻々と時間が過ぎ少し早めの朝食を摂る事にする。
昨日の残りの野菜炒めと冷えた飯を冷蔵庫から取り出しフライパンの上で混ぜ合わせチャーハンのようなものにする。
俺はお皿に盛り付け、キッチンの収納箱からスプーンを取り出し食事をする。
「良い匂い・・・」
コタツの方からカルタンの小さな声が聞こえた。
「おはようカルタン一緒にご飯食べる?」
スプーンでチャーハンを一口分すくい近づいてくるカルタンに差し出す、カルタンは小さな口を開けてそれをパクッと口の中に入れる。
「うん!一緒にたべゆ!」
口の中に物が入っているため舌っ足らずな口調になってはいるがそれでも元気万点だった。
カルタンを交えた食事が終わり俺は制服に着替える。
後ろでカルタンが何かを一生懸命にこしらえている、何だろうと覗いて見るとカルタンは慌ててサッと隠す。
「何をしてるんだい?」
カルタンの頭に手を置き優しくなでる、がカルタンは「だめよぅ」と一言いって俺から離れていった。
俺は着替えて鞄を持ち「さて、そろそろ行くかな」と言った時カルタンがダダをこねた。
「パパ、今日はカルタンも一緒に学校に行く」
俺はもちろん「駄目だよ」と言ったが、今日のカルタンは頑固だった。
「だって寂しんだもん!パパとずっと一緒が良いの!」
カルタンは少し怒ったように言った、が俺は「ゴメンねカルタンでも駄目なものは駄目なんだ困らせないでくれよカルタン」
と言い返す。
カルタンは少し寂しそうな顔をして「うん・・・わかったよ、ごめんねパパ・・・・・・」
俺は少し罪悪感を持ったがカルタンの頭を少し荒く撫で部屋を後にする。
「ゴメンな・・・カルタン・・・」
俺は静かに呟き最寄の駅まで歩みを進めた。
最悪な状態だった。
電車の中は人、人、人、の満員状態、座ろう何て甘い夢状態だった。
外を見ると景色は早々と過ぎて行く。俺は早く着かないかな、と心の中で呟いた。
今日はカルタンとデパートに来ている、考えてみればカルタンの服は俺の昔の忌々しい古着だけ。
それじゃあカルタンが可愛そう、と言う俺の良心が自然とデパートまで足を運ばせた。
まぁ別にカジュアルショップでも良かったのだが生憎そこまで俺の暮らしはリッチでもない。
目指すは安売りの品、所謂バーゲン品というわけだ。
「パパーこれ!」
カルタンは物珍しそうに色々な品を眺めている、思えば海に行ったとき以来カルタンと一緒に出かけるのは初めてだ。
俺は色々な思いを頭の中で巡らせているとデパートの壁にぶち当たった!
「いだっ!?」
俺は恥ずかしくなり当たりに人が居ないかどうかキョロキョロと見まわす。
よかった・・・誰もいない。安堵のため息がほぅっとこぼれる、が誰もいない・・・
「カルタン!」
俺はカルタンの事を思いだしすぐに探し始めた、しかしカルタンは見当たらない!
どうしよう・・・今ごろアイツ泣いてるんじゃ・・・・・・・
俺は嫌な不安を募らせ必死でカルタンを探す。
その時だった。
アナウンスの前のあの独特の音がした。
「パパ様、カルタンちゃんのパパ様、迷子センターまでお越しください」
俺は急いで迷子センターまで駆けて行った。
「びぇぇぇぇぇ!!」
予想どうりカルタンは大泣き状態、それをあやす迷子センターのお姉さん。
「カルタン!」
俺はカルタンの名前を呼んだ。
「パパー!」
カルタンは凄い勢いで走ってきた。バフっという音と共に足元に抱きつくカルタン
俺はカルタンの頭を優しく撫でると「ごめんね、ごめんねカルタン」と謝る。
「パパぁ・・・淋しかったよぅ!」
カルタンは小さな手を握り締めポコポコと俺の太ももを叩いた。
そこでお姉さんが「よかったねカルタンちゃん、パパが見つかって」
「うん!」
カルタンは満面の笑みで答えた。
「あとね、パパ、もう一人迷子の人がいるの」
カルタンは俺の方を向いて愛くるしい顔で言って来る。
「えっ?」っと俺は辺りを見まわす・・・!
見ると一人リーゼント頭で色白顔、学ランで長身の男がぼんやり立っていた。
まさかなぁー。っと思いつつカルタンに尋ねてみる。
「あの人?」
少し額に汗を浮かべ半信半疑にカルタンに尋ねると。
「うん、そうだよ」
カルタンは何でも無い事の様に俺に返答を返した。
うそだろぉーっと思っていると物凄い速さで一人の少年?が走ってきた。
「アニキ!もうっ!何処に行ってたのさ!?」
少年は長身の男に近寄り叱咤する。
「お、おぅ!悪い悪い喫煙コーナーに寄ってたら見失っちゃって」
長身の男はたじろぎながら必死に弁解する。
「あのさー何もここに来てまでタバコ吸う事無いでしょ!?」
少年はやれやれと言う感じで髪をかきあげた。
その後も言葉を失うような少年?の罵声が長身の男を攻め立てる。
そしてお姉さんが一言。
「あ・・・スコタンさんが見つかって良かったねアンタンさん」
頬に大きな汗を浮かべて言った。
「お、おう!」
アンタンと呼ばれた男は少し恥ずかしそうに言った。
「本当にご迷惑おかけして済みません」
スコタンと呼ばれた(口調からして)少女は丁寧に言うとアンタンを連れて外に出ていった。
暫く呆気に取られていたがすぐに気を取り戻し俺も一言
「俺も、ご迷惑おかけしました、本当にありがとうございます」
とお姉さんに感謝の言葉を言う、お姉さんも「いえいえ、今度は気をつけて下さいね」と言いにこやかに微笑んだ。
随分とエキサイティングな一日を過ごしたが、何とか服を買って、家に戻ってきた。
買った服は水玉模様のワンピース、無地のトレーナーと青い生地のジーンズ、スカート。
カルタンは嬉しそうにその服に着替えた。
しかし未だに服を着る事が苦手なのか、時折「手伝ってぇー」と言う。
俺は良からぬ考えを打ち消して服を着る手伝いをした。
今夜はカルタンのファッションショーだ。
季節はゆっくりとした足取りで移り変わってゆく、俺は神がいるならこう願うだろう。
(どうかこの時が永遠でありますように・・・と)
儚い願いと知りながら・・・。